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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)11461号 判決 1994年4月08日

原告

菅原潤子

被告

松下宏

主文

一  被告は、原告に対し金一二一万六七三二円及びこれに対する平成二年一〇月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三一一六万五七七五円及びこれに対する平成二年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故で受傷した被害者から加害車両保有者兼運転者に対し、自賠法三条に基づき、損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成二年一〇月二三日午前二時二三分ころ

(2) 発生場所 大阪市西成区花園南一丁目七番二六号先路上(以下「本件交差点」という。)

(3) 加害車両 被告運転の普通貨物自動車(和泉四一こ一四九二、以下「被告車」という。)

(4) 被害者 足踏式自転車(以下「原告自転車」という。)に乗つた原告

(5) 事故態様 被告車と原告が本件事故現場で出会頭に衝突したもの

2  被告の責任

被告は、被告車の保有者であるから自賠法三条により本件事故による原告の損害について賠償責任を負う。

3  原告の受傷、治療経過、後遺障害

(1) 傷病名

頭部外傷、骨盤骨折、外傷性腎・肝損傷、左肋骨(第六~九)骨折、左肘脱臼骨折(左肘頭骨折)、ストレス性胃潰瘍、左肘関節拘縮、左膝異常性仮骨

(2) 治療状況

医療法人明生会明生病院で平成二年一〇月二三日から平成三年五月二四日まで入院治療(二一四日間)

(3) 後遺障害の程度・等級

原告には、左肘関節・骨盤に変形癒合、左膝内側関節部に骨新生が見られ、左肘及び左膝に著しい運動障害の併合七級の後遺障害が残つた。

4  損害の填補

自賠責保険から、治療費として五四万六一四五円、付添費として五八万七五五五円、傷害慰謝料として五万九二〇〇円、文書料として八〇〇円、雑費として六三〇〇円、後遺障害関係として九四九万円の合計一〇六九円が支払われた。なお、治療費、付添費、文書料、雑費については本件請求外の損害である。

二  争点

1  過失相殺

本件事故は、被告が対面青色信号に従い、被告車を運転して本件交差点に進入したところ、原告が対面信号が赤色を表示しているにもかかわらず、原告自転車が交差点に進入したため発生したものであるから、原告の過失が大であると被告は争う。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  証拠(乙七一、七二、原告本人、被告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、アスフアルト舗装された平坦な南北にのびる片側各二車線(歩道も設置されている。)、中央分離帯のある国道二六号線(以下「国道」という。)と東西にのびる幅員約五・五メートルの道路とが交差する信号機により交通整理のなされている市街地の交差点内であり、街路灯も設置されていた。本件事故当時路面は乾燥していた(なお、実況見分調書(乙七一)には国道の最高速度が時速三〇キロメートルとの記載部分があるが、本件道路状況に照らすと、交差道路の制限速度を誤記した可能性が高く、右記載部分を採用することはできない。)。

(2) 本件事故は、被告運転の被告車が、国道北行道路の中央寄車線を北進して、対面青信号に従い本件交差点に進入したところ、本件交差点北詰の横断歩道を、赤信号にもかかわらず原告自転車に乗つて東から西に横断中の原告をその手前二五・四メートルで発見し、急ブレーキをかけ、ハンドルを右にきつて避けようとしたが及ばず、二四・三メートル進行して被告車左前部と原告自転車左側面が衝突したものである。衝突後、六・四メートル進行して被告車は停止し、原告は原告自転車とともに九・三メートル北西にとばされて転倒した。本件事故直前の被告車の速度は時速六〇キロメートルを超えていた(時速は約六〇キロメートルであつた旨の被告の供述、前記の衝突までの距離、停止距離、原告自転車の損傷程度、原告の受傷程度を総合すると被告車の速度は時速六〇キロメートルを超えていたと推認することができる。)。

(3) 本件事故直前、タクシー(普通乗用自動車)を運転し、国道を南進して対面青信号に従い、本件交差点に進入しようとしたタクシー運転手上野和夫は、対面赤信号にもかかわらず、自転車に乗つて前記のとおり東から西に国道を横断開始していた原告を発見し、クラクシヨンを鳴らすとともに、ブレーキをかけて減速し、原告自転車をやりすごして、その後方を進行したが、その際、原告は被告のクラクシヨンを意に介さず横断をしていた。その直後、上野は急ブレーキの音を聞き、本件事故が発生したのをバツクミラーで現認した。

(4) 本件事故により、原告自転車は車体中央部が逆くの字に曲損するなど大破し、被告車も左前部ボデー凹損の損傷が残つたこと

以上の事実が認められる。右認定に反する被告本人の信号の青を確認して横断した旨の供述部分は乙七二に照らし採用できない。

2  右事実によると、本件事故は、被告に前方不注視の過失(前記上野が原告の横断を発見し、減速するなどして事故を回避しえたことに照らすと、上野が被告車の反対方向に走行していたことを考慮しても、被告の原告発見が遅れていたことは否めず、被告の前方不注視の過失は認められる。)があり、また、時速六〇キロメートルを超える速度で走行していたことにより惹起されたものであるが、対面信号が赤にもかかわらず、しかも、横断道路の通行車両に注意することなく、自転車に乗つて横断していた原告の落度も重大といわざるを得ず、七割の過失相殺をするのが相当である。

二  損害額(各費目の括弧内は原告主張額)

1  入院雑費(二七万八二〇〇円) 二七万八二〇〇円

原告が本件事故による受傷の治療のため二一四日間明生病院に入院したことは当事者間に争いがなく、その間の入院雑費としては一日あたり一三〇〇円が相当であるから、右期間の入院雑費は二七万八二〇〇円となる。

2  休業損害(一六九万一八四一円) 一六九万一八四一円

争いのない事実に、証拠(甲二、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は本件事故当時、四一歳(昭和二四年一〇月三〇日生)の健康な女性で、家庭の主婦として家事に従事するとともに、夫の経営する焼肉店の手伝いをしていたこと、本件事故により入院を余儀無くされ、七か月間家事労働、夫の手伝いに従事しえなかつたことが認められるところ、右によれば、その休業損害を算定するにあたり、平成元年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計女子労働者四〇ないし四四歳の平均給与である年二九〇万三〇〇円を基礎とするのが相当であるから、休業損害は一六九万一八四一円となる。

2,900,300÷12×7=1,691,841

(小数点以下切捨て、以下同じ)

3  入通院慰謝料(二二九万円)

前記原告の受傷部位、程度、入通院期間、実通院日数等の諸般の事情によれば、その慰謝料として二二九万円が相当である。

4  後遺障害による逸失利益(二五八九万五七三四円)二五八九万五七三四円

原告の後遺障害が併合七級であることは当事者間に争いがなく、証拠(甲二、原告本人)によれば、平成三年一一月一一日に症状が固定したものの、左肘関節の用廃、左膝関節の機能障害のため、衣服の着脱が困難であり、食事を摂取するにも茶碗がもてないし、入浴も困難、階段の昇降が不自由、和式トイレの使用ができないなどの障害を残したことが認められ、右の日常生活での困難を余儀無くされていることに照らせば、原告は症状固定時から稼働可能な六七才まで二五年にわたり、その労働能力を五六パーセント喪失したものと認めるのが相当である。これに前記平均給与額を基礎としてホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、二五八九万五七三四円となる。

2,900,300×0.56×15.944=25,895,734

5  後遺障害慰謝料(八〇〇万円) 八〇〇万円

前記認定の後遺障害の程度、原告の生活状況等の諸事情に照らすと、その慰謝料としては八〇〇万円が相当である。

6  小計

以上によると、原告の総損害(弁護士費用は除く。)は、本件訴訟では請求していない治療費、付添被告、文書料、雑費の計一二〇万円を加算すると、三九三五万五七七五円となる。そこで、前記過失相殺により七割控除すると一一一八〇万六七三二円、さらに既払金一〇六九万円を控除すると、一一一万六七三二円となる。

7  弁護士費用(二五〇万円) 一〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一〇万円と認めるのが相当である。

三  まとめ

以上によると、原告の本訴請求は、被告に対し、金一二一万六七三二円及びこれに対する不法行為の日である平成二年一〇月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判官 髙野裕)

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